2021年2月25日木曜日

コレットは死ぬことにした Colette Decides to Die

暁のヨナの単行本を当時出ていた33巻まで読んだところで、その後の展開を知りたくて花とゆめを買うようになった。せっかく買ったので他の漫画も多少見ていたのだが、「コレットは死ぬことにした」は最初タイトルに退いて敬遠していた。なんとなく、ぺらぺらと見ていると絵がきれいで気になってきた(ちょうど17巻後半102話あたりから)。再びまんがParkでポイントを貯めて読む。13巻あたりまで無料で読んだところで、どっぷりはまって手元に欲しくなって、購入して17巻まで一気に読む。

この思わず退いてしまうタイトル、この漫画を手に取ってもらうのにマイナスでしか無い。もともと第1話だけの読み切りだったと読んでうなずけるけれど、第1話だけとしても適切なタイトルでは無いと思う。その後短期集中連載になった時点でタイトルを替えられなかったのだろうか。ましてや長期連載になると、甘いラブストーリーなのに、このタイトルから受ける印象はますます中身とかけ離れている。

タイトルで損をしていると言えば、全然違う話だけど、藤のよう「せんせいのお人形」もタイトルからエロ漫画かいう印象を受けてしまうのではと思う。

主人公の成長物語ではあるものの、コレットはスタートの時点で、幼い頃から大変な努力をして17歳にして既に一人前の薬師(お医者さん)で、責任感が強く一人で抱え込んで頑張ってしまう。その点で神様であり冥王であるハデス様と似ているし、治療をする上で対等であるところが一番の魅力だ。成長もコレットだけでなく、ハデス様も変わっていくところがいい。最初の頃はハデス様は、絶対に気に触ることはしない家来に慣れているせいか、閨に入ってきて服を剥ぎ取ってまで治療する姿に、その職業意識は認めながらも反発していたし、体調の悪いときは自分の中に籠もってしまってそっぽを向いたりしていたのが、だんだん穏やかになってコレットへの好意を素直に表すようになっていく。

でもってコレットも最初から一人前の薬師ではあるものの完璧な人間ではなく、定住して村の薬師として働くのは初めてと思われるが、働き方をコントロールしたり、一人ですべてをこなすには忙しすぎることに村人の理解を得ることができず、第1話では別世界に行きたくなって井戸に飛び込んでしまう。その後も弟子が自分より未熟であることについいらいらして自分で抱え込んでくたびれ果てた挙げ句、冥府で薬師としてありえないドジをしてしまい、ハデス様に追い返されたこともあった。コレットの向上心と真面目さの源は、6歳の時に村が流行病で全滅して、真面目さも勤勉さも報われない理不尽への怒りだが、6歳で両親とも友達とも永遠の別れをしなければならなかった悲しさ寂しさに、時々呑み込まれてしまいそうになる。そんなコレットをハデス様は、第1話で無礼だと文句をいいながらも寝不足で目が腫れているのに気がついて、自分の治療を後回しにして、好きなだけ寝かせるように家来にいっているし、アスポデロスに連れて行って、自分が疲れ果ててもやる気を失わないのはここで安心して休んでいる霊達がいるからだと見せる。時には寂しくて甘えたいコレットを恋人になる前からそっと抱きしめて支えている。仕事に真摯であることに共鳴して尊敬するだけでなく、そんな優しさにコレットが惹かれていくのももっともだと思われる。

ベースになっているギリシア神話は子どもの頃読んだきりでだいぶ忘れてしまったし、ハデスについて呼んだ記憶は全くないので調べてみたが、神様は不老不死でさまざまな力を持ち、偉そうで残酷で自分勝手が多く、特に男性の神様は女神、ニンフ、人間を問わず、次々愛人にしたりして、好き放題が多い。その中で、ハデスは非常に真面目で、浮気相手といえばミントの精のメンテくらいで(レウケーもいるけど、エリュシオンに白ポプラはあるのだろうか)あとは妃のペルセポネ一筋という、非常に少女漫画的に魅力的な神様であったことを発見。

ハデス様は5巻の32話で、寝ているコレットを抱きしめながら「おまえが好きだ」と既に自覚してるし、その前に27話でディオニソス様に「ハデス様って コレットに惚れてんですか?」と既に見抜かれているし、その後も寝ぼけたときとか加護の反動で弱っているときとか思わずコレットを抱きしめたり、海辺で口づけ未遂したり、コレットも10巻59話で「いつのまにか私はあなたに恋していたのね」と気がついてからも、告白し損ねたり、メンテちゃんにハデス様を占領されてもやもやしていたりと、二人の関係は友達以上からなかなか進まない。お互いに踏み切れないのは、ハデス様が不老不死の神様、それも冥府の裁判官なので、将来は死んだ後のコレットを裁き、その魂が生きていた頃の思い出も恋心も忘れていくのを見ていかなければならない立場であることが一番の障害となっているが、やっと12巻73話で腹をくくったハデス様の告白でめでたく晴れて恋人になる。このなかなか進まない2人の関係が微笑ましい。

全編に切なさが漂うのは、人は生きて死ぬ、それも理不尽に若くして死ぬこともあるという事実がずっと着いてまわるからだろう。コレットは、6歳の時に故郷の村が流行病で自分以外の村人は全員死ぬという状況にあっているし、コレットの薬師すなわちお医者さんという仕事からして人の死に立ち会うことも多いし、自分を育ててくれた薬師のアンノ先生には独立してからは初めて会ったのが冥府のアスポデロス(天国)だったし、告白してからのハデス様は積極的でラブラブだけど、2021年2月20日の111話現在コレットは、ハデス様とは結婚できないし、自分だけ歳とってしわしわになっていくことを自覚している。不老不死のハデス様がどんなにコレットのことを思っていても、置かれている状況に違いがあるから、コレットの抱えているこの思いが通じるのは何かきっかけが必要だと思われる。なにしろハデス様には無限に時間があるから。今忙しくて会えない間に、少しは二人の将来のことを考えるようになるかな。

時々心に突き刺さる台詞があって、思わず涙が出そうになる。5巻27話のディオニソス様の「人を好きになればなるほど一緒に生きてゆけないことが辛くなる」という台詞、神様と人間の関係でなくても、家族や友達やペットと永遠の別れが思い出される。特にペットは自宅にいることが多い私にとって、ともに過ごした時間も密度が濃くて長いのに、いつの間にか年をとって、永遠の別れが近いことを思い知らされるたびに切なくなる。

この漫画は絶対にハッピーエンドに終わると思うけど、2021年2月現在(花とゆめ6号)既に最終章に入っているそうだけどどうやって着地するのだろうか。「神様はじめました」の巴衛と奈々生は、巴衛が人になるハッピーエンドだったけど、ハデス様の場合は冥王だしそれはありえないと思うので、コレットが神様かそれに同等の存在になって、地上で薬師を繋ぎながら冥府にも行き来してハデス様のお妃になるというのが私の予想。

だって、ここに描かれている死生観ってそのままでは救いがなくてあまりにも切ないもの。死んだら冥府の裁判を受けて、善と判断されてアスポデロスで快適に過ごしたとしても、だんだん自分が何者かや生きていたときのことを忘れていって、あとから逝ったものは、先に逝った恋人や家族や友人がもうすべて忘れてしまっているかもしれないので、お互いに認識できないし(アンノ先生と奥さんがあやうくそうなるところだった)、最後は完全に忘れて現生に魂は戻るということは、結局無と同じ。コレットはいずれ歳とってしわしわになって(ハデス様はコレットの見かけは気にしないかもしれないけど、コレットはそうはいかないと思う)死んだあとはアスポデロスで、ハデス様との幸せな日々も忘れて、いずれ消滅してしまう。生まれ変わっても前世を一切覚えていないから別人と同じ。そしてそれをハデス様はただ見ていなければならないというのが、この死生観の設定で、ハデス様もそれを覚悟して告白したとはいえ、それではあまりにも悲しくてやりきれない。

しかしコレットが旅から帰ってきて、薬師を繋ぐ夢にも順調に進んでいるし、終わってしまうと、寂しい限りだけど、ちょうどよく未練を残しながらだらだらと引き延ばさずに終結するのが潮時なのだろう。潔さに感心する。

ギリシア神話自体にもいろいろなバージョンがあるし、神話に忠実である必要はないのだけど、冥府で育っているザクロの木は何か意味があるのか、デメテル様とは6巻34話でいつか再開しそうな別れ方だったけどまだ会ってない。この辺が最終章でなんらかの展開をするのかなと思っている。

ちょっとだけ残念なのは、台詞で時々何を言っているのか、よくわからないときがあること。表現が適切で無いと思われるときもある。神様だからって難しいことばづかいをさせようとしすぎなのでは。

あとまあ年齢不詳な神様ならいいのかもしれないけど、ハデス様が別人のように見えるときがある。10代の少年のように見えるときと、30代くらいに落ち着いて見えるときと。ハデス様とコレットの頭の大きさのバランスが妙に感じるときもある。



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